もうこはん日記

いまだ青い尻を晒せ

シンシア

なつかしい人やあの町は、いまも変わらずに、そこにあるのだろうか。

賑やかな商店街。よく君と買い物をした。僕は手軽にカレーでも作ろうとしてたのに、君は唐揚げが食べたいなんて言い出してスーパーと肉屋を往復した。揚げ物なんて一人じゃ作らないものね。あぁ、そういえばあの古本屋で僕は下痢になった。「僕にはプライドがあるのだ」と、括約筋を無理に活躍させていた僕のかわりに君は店員にトイレの場所を聞いてくれたね。そして「何であなたはそんなに情けないの」と言って涙ぐんでいたね。いまとなっては美しい思い出さ。

東急線に乗ってしばらく行けば、あの町だ。車窓から入ってくる夕暮れに目を向けると、部活帰りらしい女子高生の向こう側に、大きな川が見えた。この川を渡ってしまえば、なつかしいあの町はすぐそこだ。ところでこの女子高生はスカートの下にジャージを穿いているけどどうなんだろう。
僕は何度この電車に乗ったのだろう。何度君に会いにきただろう。

電車を降りると、何だか違う駅に着いてしまったような気がして思わず駅の名前を確かめてしまったよ。そういえばあの頃、大掛かりな工事をしていたけど、随分モダンな駅になったんだね。半端な金のかけ方しやがってと思ったけどね。
駅前は相変わらず賑やかで商店街も見覚えのある店がほとんどだったけど、無くなった店や新しく出来たマンションなんかもちらほらあるね。どうしていまはもうない場所にまつわることばかり思い出すのだろう。行きかう人たちは、何だか幸せに笑いながら、あの頃と同じように通り過ぎるのに。
僕の目に映るのは時の流れだけ。無くなったものをわざわざ探しているみたいだ。心がくだけてゆくようだよ。

夜空が町に落ちて、僕は肩をすぼめて歩いて見覚えのあるラーメン屋に入った。二人で来ようと言っていたところさ。カウンターで黙々とラーメンを啜るおっさん達の間に隠れるように座って、僕もラーメンを頼んだ。どんぶりを覗き込んでいると、何故だか色んなものが終わってしまったような気がしてたまらなく寂しい気分になったよ。「けちんないでチャーシュー麺にしとけば良かった」とも思ったよ。

一人の部屋は寒々しく散らかって、そこに帰っても何処にも「帰っている」気がしないんだよ。そういえば、この前久しぶりに料理をしてみようとしたら、タカノツメが切れていることに気づいたんだ。あれは君が買ってきたんだよね。袋一杯に詰まっていたけど、少しづつ少しづつ確実に減っていったんだね。スパイスが効いてないチャーハンをぼそぼそと食べたよ。
どうせ帰る場所もないから、友達の家を泊まり歩いていたよ。

虚しい心を、せめてゆきずりの触れ合いで慰めあうのも悪くはないさ。ねぇ、どうですかお姉さん、とカウンターのおっさんの二つ向こうのOLをじろじろと見つめてその人のバックストーリーや今後の二人の展開なんかを妄想してしまう僕は相変わらずだよ。しかしさぁ「体目当てでしょ」なんて陳腐なセリフ吐くおんなが意外とよくいるけどふざけんなよ遊び心を忘れないウィットにとんだ愉快な会話を楽しめないおめぇが悪いんだろターコある意味「体目当て」なんて当たり前じゃねぇかむしろストレートな正論だよしかもおれは淡白だからセックスなんてじつはそんなすきじゃねぇよいやおっぱいは好きなんだけどでもやっぱり「体と心」ってむつかしいなおいもうわかんねぇよ。俺何書いてんだろ、死んだほうがいいんじゃないかまじでさ。

麺を半分ほど食べ、煮卵を割り箸で弄んでいたら黄身がスープに溶けだした。すっきりとした醤油スープが濁った。濁ったスープの中に、もやしの破片やしなちくが虚しく浮かんでいた。自分の頭の中を覗いているようで、僕は食欲をなくした。
僕は何をしているんだ。ふらふらとこの町にやってきて、一人きりでこんなところで。ここはどこなんだ。僕は何をしようとしているんだ。そもそも僕は誰だ。
思わず助けてくれと呟いていた。誰に向かって?
それは君だよ。無責任に僕が裏切って、もういなくなってしまった君だよ。

シンシア
そんなとき
シンシア
君の声が
戻っておいでよと唄っている

そうなんだ、シンシア。君の声は、身勝手に膨らんでしぼんだ僕の心に、「ろくなもんじゃねぇ」と酔いに任せて電信柱を蹴飛ばしても足が折れない程度に加減してしまう僕に、いつも響いてくるんだ。「わたしがあなたの居場所よ」といつも言ってくれる。
響いてくるのは、もういない君の声だ。きっと、もういない存在だから君の声は響いてくるんだね。
君の部屋は、いつも暖かだった。君はまだ一人であの部屋に住んでいるのかな。君の部屋のカーテンやカーペットは色あせてはいないかい。
君は、まだこの世界にいるのかな。そもそも、本当に君はいたのかな。もう分からないよ。でも、どちらにしろ君の声は響いてくるんだ。

シンシア
帰る場所も
シンシア
ないのなら
シンシア
君の腕で
シンシア
眠りたい



以上の文章は、吉田拓郎かまやつひろしのデュエット『シンシア』という名曲の歌詞を僕風に膨らませてみたものです。
何か恋愛モノの脚本でも書いてみようかと思って、練習になるかなとかいてみますた。
もし本気で誰かに語りかけてたり、マイミクのだれかにむけての大公開のラブレターだったら少し怖いですな。
次はビーズの曲でタンクトップが似合う恋愛を描いてみたいです。

僕は中学生くらいから吉田拓郎の唄が大好き(特に岡本いさみ作詞)なのだけれども、よく詞をみてみると非常に男の身勝手さが感じられますな。そんな唄が大好きな僕が身勝手なのも当然かという気がした。まぁ僕は拓郎さんほど男らしくないし、第一もてませんけどね。
吉田拓郎自身も若い頃にちょっとインテリぶった女の人に「あなたの唄は男のエゴばかりで好きになれない」と言われたらしい。拓郎も若くてイケイケだったので「いけすかない女だ」とその場で大激論になってその女の人を泣かしてしまったらしいけど、少し落ち着いてみたら「自分が何か大切なものを失ってしまっているような気がした」と思ったそうだ。

そして僕も何だか大切なものを失っている気がする。いや、「失ったもの」ばかりが大切なものに見えるのかもしれない。『シンシア』の歌詞の解釈にも表れているではないか。とても始末に悪い。
失われたものにしか価値を見出せない。だから失うために手に入れる。つまり、我々はあらかじめ失われているのだ。とか書くと村上春樹っぽいな。もてるかな。
そうゆうわけで、日々失われつづけている。きっとこの瞬間も何かを失っている。シンシアの声に耳を傾けているうちに、いまある「将来的に価値があるもの」を失っている。
「失った代わりに得たものがあるはず。それに目を向けなさい」などとよく言う。しかし、僕はやはり失われたものを見てしまう。そうこうしているうちに、あたらしい何かが降ってきている。失われたものは大切だから取り返したいし、あたらしく得るものも取り逃がしたくはない。まぁ理想はそうなんですが。

この瞬間、手のひらから零れ落ちてゆくもの。
あぁ、手のひらから零れ落ちる。
手のひらから零れ落ちるほどの
零れ落ちるほどの
零れ落ちるほどの
そんなおっぱいが好きです。

あーおっぱい失ったかチクショウ。チクショウ。
あーチクショウ。

自分で何書いてるのか、いよいよ分からなくなってきたので寝ます。


ぱぱい。