もうこはん日記

いまだ青い尻を晒せ

Diet of the Dead

もともと定期的に体重計に乗る習慣がなかったけど、入院とかしてると頻繁に計らされるわけだ。
で、一年前には確か57キロだった。これは多分、かなり痩せているといっていい状態だろう。でもさ、おれの理想はほら、グラムロックのスターとかみたいに、病的にガリガリ、って感じだから、まだ健康的な体型だったけど。
そして、いま。体重はなんと10キロ増。恐ろしい。ああ、このままだと、おれはアメリカン。トレーラーハウスのソファーにふんぞり返ってMTV、ジャンクフードをコークで流し込み、メタルロックのオッサン体型。
ああ、いやだいやだ。

iPhoneちゃんのアプリでBMI(世界共通の肥満度の指標だってさ!)というのを確かめてみたら、一応普通体重の括りには入っていたけれど、肥満度は7.6%。適性体重は61.4kgだそうだ。
だいたい、あと5kg落とせばいいってことか。
まあ確かに、それ位が丁度いいような気もする。それに5kgなら、そこまで悲壮な決意とかしないでも落ちそうだし。
結局さ、食わなきゃ体重なんて落ちるんだよな。
でも、食っちゃうよな。

入院中に取り憑かれた、食への異常な執着はいまだに健在だ。
朝飯はヨーグルトか生姜紅茶だけで胃に負担をかけない、なんていうOLみたいな食生活を、実は三ヶ月位前から実践していて、でも本当はおれの食魔は朝から暴れ出しているもんだから、腹が減って仕方ない。
もうなんかあれ、朝のうちから昼飯になにを食うか、って考えが止まらない。主に麺類。それかカレー、もしくは丼物っていう、実に平均的日本人なランチ欲求だけど、それだけに強い欲望。

午前十時半くらいからのおれの脳内は、駅前の立ち食い蕎麦で月見を注文し真ん中に浮かぶ玉子の黄身を箸でつついて黒い汁にそれが溶け出しそこを手繰った蕎麦に絡ませ一気に啜る、というヴィジョンがスパークしている。他のことが手に着かない。
あるいは、あらゆる有名ラーメン店、カレー屋の情報が、攻殻機動隊に出て来る電脳にアクセスしたように目の前に浮かび上がる。あの日、ぼくらが笑って軽蔑したグルメスノッブに、気がつけばなっていたのであった。二週間に一度くらい、ラーメンやカレー、お気に入りの居酒屋なんかを誰かに語りたくて語りたくて、気が狂いそうになる。禁断症状だ。
でも、朝飯は抜いてるも同然だし、昼に麺食だったら比較的軽い食事なわけだし(二郎系は食わない)問題ないはずなんだよ。

そう、問題は、夜だ。

酒だ。
酒が好きだ。酒を飲ませる居酒屋が好きだ。酒を飲むときに一緒につまむ肴が好きだ。安居酒屋で絡んでくるオッサンはウザイが結局のところ実は好きだ。最近の酔って絡んだりムキになって喧嘩腰になる自分には本当にうんざりして後になって後悔もするけど、結局許容しているので、まあ好きなんじゃないか。友達と飲むのが好きだ。一人で晩酌も好きだ。最近はまったくないけれど(不本意だ!)女の子と浮き浮きとした感じに飲むのも好きだ。とにかく、おれは酒にまつわる全ての事柄が、大体、概ね、好きだ。酒が好きだ。さあ、酒を飲もう。

ほら、問題は酒だ。
酒がおれを太らせていくんだよ。
身体を壊して煙草は止めたけど、酒は止められなかったし、そもそも止める気もなかった。
だってさ、酒だろ。人生に酩酊がなかったら、他になにがあるんだよ、なあ。
そういうわけで、おれは順調に酒で坂道を転がり落ちてデブってゆくんだ、ポテトサラダとシメサバと唐揚げを注文してハイボールのジョッキ抱えながら。

ああ、まずい、いかん、どうしよう。

もう走るか。

走るという行為が、おれは嫌いだった。
意地でもぼくは走ったりしませんよ、っていうスタンスでおれは生きていて、それがおれの精神の疾走だったわけだよ。皇居ランナーとか見てムラムラ腹立てたりとかさ。

でも走るか。
なんか、人は30超えると走るものらしいぜ。
まだ30は超えてないけど、なんとなくその感じが分かる。
走るのも悪くないか、とか思っている自分がいる。

そんなことを考えていたら、今日、さっき、夕方くらいに、すっごい太った青年が、近所の川沿いをランニングしてた!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ってなった。
凄え。肉が揺れてる。恐ろしく真剣な表情。吹き出る汗。地響き。恐らく人の数倍は激しい呼吸。
たまらなかった。
いいもの見た。
沈み行く夕日に、おれは「ありがとう」って言ったよ。

そうなんだ、おれは、こないだも書いたけど、デブを見るのが異常に好きだ。「意地が悪い」「変態なの?」とか言われようが、まあとにかく好きなんだ。これはやっぱり単なる悪意を超えている。愛、と言ってさえいいのではないだろうか。
でも、自分がなるのは嫌だね!


さて、何故におれがここまでデブりたくないのか。
それはあれだ、モテたい、とかそういうのもある。他に改善すべき点は沢山あろうが、とりあえずな! ああ、モテたいモテたいモテたい。
でも、最大の理由は、実は別にあるのだ。

いまおれが暮らしている、この街(ああ、我が忌まわしき故郷、TAKESATOよ!)には、ある組織が存在している。
その名はDMD
いま、この街に住んでいてDMDを知らないというのなら、余程のモグリだ。
奴らはTAKESATOの闇に潜む。猛獣のように凶暴で、昆虫のように容赦がない。
ターゲットにされたが最後、必ず削られる。
明日への希望を、今日の糧を、過去の蓄積を、命を、体重を、脂肪を。
その組織の名前は、DMD
デブマストダイ
Debu Must Die.
街の美観を損なうデブは排除されるべし!
恐ろしや!
デブ狩り集団DMD

この街の若者は、命を懸けてカロリー管理をしている。
生き延びるために。
おれが見たあの青年も、必死なのだ。単なるダイエットではないのだ。

これは嘘ではない。本当の話だ。

先日、おれの同級生の弟が襲われた。
彼は、太っていた。
団地内のスーパーでバイトを終えた彼が駐輪場で自転車に跨がろうとしたとき、いきなり顔面に鮮やかなハイキックが入った。
彼は地べたに倒れ伏し、そのショックと突然の暴力に、その思考は一瞬で奴隷化した。もはや屠殺場に送られる家畜同然だった。
僅かな現金は奪われ、リュックの中の3DSも奪われ、ATMに連行され貯金も奪われた。そして奴ら、DMDのアジトに連れ込まれた。
その夜、アジトで彼に対してなにが行われたのか、それは分からない。
彼は決してそのことを語ろうとはしない。
彼はいまや、別の人間になってしまった。
あれ程ふくよかで、まるでおまんじゅうのように朗らかだった彼が、アバラが浮くほどのガリガリになって家族の呼びかけにもろくに応えない。そして日がな一日、もそもそとスナック菓子などを食べてはソファに寝転んでいる。しかし太りはしない。痩せていく一方。
どうやら、自らサナダムシを飲み込んだらしい。
うわ言のように「デブは美観を損なう。脂肪、すなわち死亡」などとDMDの信条を繰り返すだけの、生ける屍のようになってしまった彼。
ごく普通のサラリーマンで、若干メタボ気味になっていた同級生は、そんな弟の姿を見て、駅前のジムに通いだした。
DMDを恐れたのか、あるいは弟の復讐のために肉体を鍛えているのか。
同級生はトレーニングに没頭するあまり、今月一杯で仕事を辞めるという。

このように、DMDはこの街の若者の希望と脂肪を奪う。
恐るべし、DMD

そういうわけで、おれはデブるわけにはいかないのだった。


PS

一昨日、蒙古タンメン中本で、北極ラーメンを食った。
凄え辛さだったけど、完食した。最初、激しくむせたけど、舐められたくないから、平気な振りをした。最後の方は、なんか脳みそにスパークが起こってきて、スープまで飲み干してしまった。あれ、多分、覚せい剤とか入ってるぜ。やばいぜ。
汗がダラダラダラダラ出てきて、店を出る頃にはマラソンでもしてきたような状態になっていた。
その日一日、まったく大したこともしていないのに、なにかを成し遂げた気になっていた。ラーメン一杯食っただけで。

そして翌朝、激しい下痢をした。
おれのANAが悲鳴を上げた。前代未聞のヒリヒリ感を味わった。

デトックスだし、ダイエットにいいかも知れないね!


ぱぱい。